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東京地方裁判所 平成8年(ワ)5375号 判決

原告

山崎四郎

被告

大野二郎

主文

一  被告は、原告に対し、金三三一四万二七三三円及びこれに対する平成四年五月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金六二八三万九七一五円及びこれに対する平成四年五月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機の設置された交差点において、道路を横断しようとした自転車と、交差道路を直進してきた自家用軽二輪車が衝突し、自転車に乗っていた者が左大腿骨重複骨折等の負傷をした交通事故について、この自転車に乗っていた者が、自動車損害賠償保障法(自賠法)三条に基づき、自家用軽二輪車の運転者に対し、損害賠償金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は争いがない。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成四年五月一六日午前〇時一〇分ころ

(二) 事故現場 埼玉県桶川市大字坂田一六一九番地先路上で、国道一七号線バイパスと主要地方道川越・栗橋線が交差する交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故車両 原告が運転していた自転車(以下「原告自転車」という。)と、被告が所有し、かつ、運転していた自家用軽二輪車(熊谷え三七九〇、以下「被告二輪車」という。)

(四) 事故態様 国道一七号線を栗橋方面から川越方面に向かって横断していた原告自転車と、国道一七号線バイパスを大宮方面から熊谷方面に向かって走行していた被告二輪車が衝突した。

2  責任原因

被告は、被告二輪車を保有し、自己のために運行の用に供していたから、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の治療経過及び後遺障害の認定

(一) 治療経過

原告は、本件事故により、左大腿骨重複骨折、急性頭蓋内血腫、頭蓋骨骨折、左大腿骨偽関節、左膝関節拘縮、症候性てんかん等の傷害を負い、医療法人財団聖蹟会桶川坂田病院に次のとおり入通院して治療を受けた(甲三、七)。

入院 平成四年五月一六日から平成七年四月二日(合計一〇五二日)

通院 平成七年四月三日から平成一〇年四月一六日(実日数三八四日)

(二) 後遺障害の認定

原告は、右の治療の結果、平成一〇年四月一六日、〈1〉左下肢短縮三センチメートル、〈2〉左股関節痛、〈3〉左大腿骨の変形癒合、〈4〉膝関節の屈曲障害、〈5〉股関節の内旋障害、〈6〉左下肢の醜状痕等の後遺障害が残存して症状が固定した。そして、この後遺障害につき、自動車保険料率算定会において、〈1〉が自賠法施行令二条別表の後遺障害等級第一〇級八号の「一下肢を三センチメートル以上短縮したもの」に、それ以外については、第一二級一二号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し、併合九級に該当する旨の認定がなされた(甲七、一六)。

4  既払金

原告は、自賠責保険から、六一六万円の支払を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(一) 被告の主張

本件事故は、被告二輪車が、青信号で本件交差点に進入したところ、原告自転車が赤信号で進入してきて発生したものであるから、原告には、大幅な過失相殺がなされるべきである。

(二) 原告の主張

原告は、青信号に従って国道一七号線を原告自転車で横断を開始したが、途中、信号が黄色に変わったので急いで横断をしていたところ、被告二輪車が赤信号を無視して本件交差点に進入して原告自転車に衝突したのであって、被告に全面的過失があるというべきであり、原告に過失はない。

2  原告の損害(当事者の各主張は、各損害費目内で記載したとおりである。)

第三争点に対する判断

一  過失相殺(争点1)

1  本件事故の態様

前提となる事実及び証拠(甲一〇、乙一、二[一部]、原告本人、被告本人[一部])によれば、次の事実が認められる。

(一) 事故現場である本件交差点は、上尾方面から北本方面に走る国道一七号線と、菖蒲方面から川越方面に走る県道川越栗橋線(以下「本件県道」という。)が交差し、信号機による交通規制がなされている。本件県道は、川越方面がやや上尾方面に傾くようにして国道一七号線と交わっており、本件県道上の本件交差点出口と、国道一七号線の北本方面出口には、それぞれ横断歩道が設置されている。また、本件交差点内の北本方面寄りには、本件県道に沿って自転車横断帯が斜めに設置されている。国道一七号線は両側に歩道が設置されている片側二車線の道路であるが、本件交差点の手前では右折車線が設置されており、その範囲では三車線となっている。また、本件交差点には街灯が設置されており、いずれの方向からも見通しは良好である。

(二) 被告は、平成四年五月一六日午前〇時一〇分ころ、天候は雨であったが、前照灯を点灯させて時速約五〇キロメートルで被告二輪車(オフロードバイク)を走行させ、国道一七号線を上尾方面から北本方面に向かって走行して本件交差点のひとつ前の信号を青信号で通過した。

他方、原告は、仕事を終えた後、飲酒したりパチンコをしたりし、知人とラーメンを食べた後、帰宅するため、前照灯を点灯して原告自転車に乗り、国道一七号線の菖蒲方面寄りの歩道を北本方面に向かって走行し、本件交差点において、国道一七号線を川越方面に横断するため、まず、その前提として、対面信号の青色表示に従って本件県道の横断歩道を上尾方面から北本方面へ横断した。そして、本件交差点の川越方面の対面信号が赤色であったので、そこで停止してハンカチを出し、濡れた顔面を拭き始めた。対面信号は青色に変わったが、そのまま顔面を拭いており、結局、対面信号が青色に変わってから相当程度の時間が経過してしまい、対面信号が黄色に変わる直前かすでに黄色に変わってしまってから国道一七号線の自転車横断帯を横断し始めたが、いずれにしても、国道一七号線を横断し始めてまもなくの時点ではすでに対面信号は黄色になっていた。

(三) 被告は、降雨のため目線が下がっていたのか、本件交差点の対面信号が赤色であったにもかかわらず、これを看過し、最も川越方面寄りの車線を走行し本件交差点に進入したが、自転車横断帯を横断していた原告に気がつかずに原告自転車に衝突した。被告は、突然強い衝撃を受けたので少し走行して停止し、振り返ったところ、路上に転倒している原告を発見し、初めて自転車に衝突したことに気がついた。

この認定事実に対し、被告は、本人尋問において、対面信号が青色であることは確認しており、衝突するまで信号はずっと視界の隅に入っており青色のままであったと供述し、青信号を確認して本件交差点に進入した点についてはこれに沿う証拠(株式会社損害保険リサーチ作成の調査報告書、乙二)もある。その上、被告は、椅子に座っているように背筋を伸ばし、顔は正面を向いていたとも供述しているが(被告本人)、他方で、衝突した瞬間でさえ原告自転車の存在に気がつかなかったとの趣旨の供述をしている。しかし、正面を向いて運転し、青信号がずっと視界に入っていたにもかかわらず、いかに深夜の雨天時とはいえ、街灯が存在している交差点において、横断している原告自転車に衝突時ですら気がつかないというのは不自然というほかない。その上、被告は、原告自転車を認識したか否かという重要な問題について、株式会社損害保険リサーチの調査に対しては、目前で原告自転車を発見したと説明しており一貫しない。この点について、被告は、そのような説明をしたことはないと供述するのみで(被告本人)、必ずしも合理的な説明をしていない。また、被告の供述のとおりであるとすれば、原告の赤信号無視ということになるが、被告は、本件事故後まもなく、原告の兄と二度、原告にも一度会っているが、その際にも謝罪の言葉は述べているが、少なくとも、事故態様が原告の信号無視によるものであることに関連する話はまったくしておらず、実家に電話連絡した際にも自分で責任を持つように言われている(証人山崎康明、被告本人)。原告は重傷を負ったので、仮に、原告に一方的な落ち度があったとしても、事故後まもなくの時期に原告やその親族にそのことを話さなかったからといって、まったく不自然とまではいえないが、被告が供述するような事故態様であったとすれば、右の原告ら及び被告の実家への対応は、必ずしも合理的なものとは言い難い。

このように、被告の供述内容は、内容自体に重大な疑問がある上、事故直後の原告らなどに対する対応に照らしても、必ずしも疑問がないとはいえず、信号表示以外の重要な点で、事故後の調査会社の説明内容とも合致していないなど看過できない問題があり、直ちには採用できない。

なお、被告は、本件事故当時、バイザー付きのフルフェイスのヘルメットを装着していたので、下を向く必要はないとして、正面を向いて青色信号を確認したことを裏付けるかのような供述をする(被告本人)。しかし、そうとすれば、上記のとおり、原告自転車にまったく気がつかなかったことについて疑問は残るのであり、そのようなヘルメットであっても、下を向かないまでも、雨のため、顔をやや下げがちになることは考えられるのであって、右のようなヘルメットを装着していたことをもって、被告が信号表示を確認したことを裏付けられるとはいえない。

他方、原告の本人尋問における供述も、回答に時間がかかったり、県道を渡ってから、国道一七号線を渡るまでの時間について一〇秒ほど相異する供述をしたり、被告二輪車の認識について、音だけ聞こえたと供述したり、光が少しだけ見えたと供述したりするなど、必ずしも疑問がまったくないわけではないが、回答に時間がかかるのは言語障害が大きく影響していると考えられ、また、その他の疑問は、被告の供述内容に対する疑問と比較すると、重要度の点で劣るといえるから、採用できないほどの疑問があるとまではいえない。

2  過失相殺

1の認定事実によれば、被告は、前方注視を怠り、赤色の対面信号及び横断中の原告に気がつかず漫然と本件交差点に進入し、本件事故を発生させた重大な過失がある。他方、原告も、対面信号の表示が青色になっていたのに、顔面を拭いていて横断せず、信号表示が変わるころになって、見込進入してくるおそれのある車両の確認もすることなく漫然と幹線道路である国道一七号線を横断し始めて本件事故に遭遇した過失がある。

この過失の内容、本件事故の態様(二輪車対自転車の事故であることも含む)を総合すると、原告と被告の過失割合は、原告が二〇パーセント、被告が八〇パーセントとするのが相当である。

二  原告の損害額(争点2)

1  治療費(原告主張額二〇四万一〇三九円) 二〇三万四五六九円

原告は、桶川坂田病院における平成一〇年四月一六日(症状固定日)までの治療費として、合計二〇三万四五六九円を負担した(甲四、八の1ないし327)。

2  付添看護料(原告主張額六五七万八七五四円) 三二二万四七五四円

証拠(甲七、一〇、一一の1ないし15、一二の1ないし3、一三[一部]、証人山崎康明[一部]、原告本人)によれば、原告は、平成四年一二月一二日に再骨折をしたため、再手術として創外固定(大腿骨)及び骨移植術を施行して骨癒合の経過観察をしたが癒合せず、平成六年六月八日再々手術として大腿骨髄内釘挿入術を受けたこと、その間は、車椅子、リハビリ及び身の回りの必要のため付添いを必要としたこと、身の回りのための付添いの内容は、食事をワゴン車からベッドのところへ運んだり、肌を拭いたり、肌着を取り替えて洗濯をしたりするなどであったこと、桶川坂田病院は、平成四年から平成六年一一月まで基準看護ではなかったため、同病院の主治医は、原告について平成四年五月一六日から平成六年一一月末日まで付添看護が必要であったと判断していること、再骨折後の平成四年一二月一四日から平成五年一月二日までと、再々手術後の平成六年六月九日から同年八月三一日までの合計一〇四日間について家政婦を依頼し、九〇万二七五四円を負担したこと、入院中ベッドから起きられないころには、原告の姉らが朝及び夜に付添看護をしていたが、ベッドから起きることができるようになってからは来ていないことが認められ、山崎康明作成の陳述書(甲一三)及び証人山崎康明の供述中、右に反する部分は直ちには採用できず、その他、右認定を覆すに足りる証拠はない。

この事実によれば、原告の姉らがどの程度の頻度で付添看護に来ていたかは必ずしも明確ではないが、桶川坂田病院の主治医の判断においても、平成六年一一月末日までは付添看護が必要であったのであるから、相当程度の日数は付き添ったものと推認できること、中間に手術が二度あり、その後しばらくは職業付添人として家政婦が雇用されていること、医師の判断において付添看護の必要性がなくなったとしても、負傷内容や後遺障害の内容に照らすと、ある程度の付添は必要といえること、姉らが付添看護をしたときは一日中付添をしていたわけではないことなどの事情を総合すると、平成四年五月一六日から平成六年一一月末日までの九二九日間のうち、家政婦を雇用した一〇四日を控除した八二五日については、その三分の二である五五〇日分について一日あたり四〇〇〇円、その後退院した平成七年四月二日までの一二三日については、その半分である六一日分について一日あたり二〇〇〇円の限度での付添看護費を相当と認めた。

したがって、本件事故と相当因果関係のある付添看護費用は、三二二万四七五四円となる。

(計算式)

902,754+4000×550+2000×61=3,224,754

3  入院雑費(原告主張額一二六万二四〇〇円) 一二六万二四〇〇円

入院雑費としては、一日あたり一二〇〇円の入院日数一〇五二日分で一二六万二四〇〇円を認めるのが相当である。

4  通院交通費(原告主張額一四万五九二〇円) 一一万一三六〇円

原告は、通院交通費として、一日あたり三八〇円の三八四日分で一四万五九二〇円を負担したと主張する。

ところで、原告の自宅から桶川坂田病院までは約六キロメートルあり、原告は、通院する際、兄の娘に車で病院まで送ってもらい、帰りはバスを利用して帰宅し、このバス料金は片道一九〇円であった(証人山崎康明、原告本人)。

この事実によれば、原告は、自動車のガソリン代とバス代で、交通費として一日あたり少なくとも二九〇円を要したということができる。そして、原告は、症状固定日までに桶川坂田病院に三八四日通院したので、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は、二九〇円の三八四日分で一一万一三六〇円となる。

5  休業損害(原告主張額一五三〇万七六三三円) 一五三〇万七六三三円

原告は、休業損害として、平成三年の収入である年間三五九万〇〇三二円を前提に、これを一二分した額の平成四年五月一六日から平成八年一月一五日までの四四か月間分である一三一六万三四五〇円と、年間三五九万〇〇三二円を日割りした額の同年一月一六日から同年八月二〇日までの二一八日間分である二一四万四一八三円を合わせた額である一五三〇万七六三三円を主張する。

ところで、証拠(甲五、六、一〇、一四、原告本人)によれば、原告は、マメトラ農機株式会社に勤務し、本件事故の前年である平成三年に年間三五九万〇〇三二円の収入を得ていたこと、本件事故により平成四年五月一六日から平成八年八月二〇日までの一五五八日間を休業し、その間は給与の支給を受けていなかったことが認められる。

この事実によれば、原告の休業損害は、年間三五九万〇〇三二円の一五五八日分である一五三二万四〇二七円(一円未満切り捨て)となり、少なくとも、原告が主張する一五三〇万七六三三円は認められる。

6  逸失利益(原告主張額二六六一万三九六九円) 一二四三万七七〇一円

(一) 原告の主張

原告は、本件事故により労働能力を三五パーセント喪失したが、本件事故に遭わなければ、症状固定時から一五年間にわたり、平成八年賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子五〇歳から五四歳の平均賃金である年間七三二万五九〇〇円の収入を得ることができたと主張し、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除した結果(係数一〇・三七九六)、逸失利益は二六六一万三九六九円となると主張する。

(計算式)

7,325,900×0.35×10.3796=2,6613,969

(二) 認定事実

証拠(甲一〇、一三ないし一五、証人山崎康明、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

原告(昭和二〇年四月一五日生)は、幼少時に高熱に冒されたことが原因で言語障害を患っているが、中学を卒業した翌年である昭和三七年からマメトラ農機株式会社で働くようになり、本件事故当時も同社桶川工場で主として耕運機の組立作業に従事していた。原告は、平成八年八月二一日に職場復帰した後も、耕運機の組立作業に従事しているが、後遺障害の影響により膝を十分曲げることができず、力を入れることができないために荷物を持ち上げられないなど、労働内容に不便をきたしている。その後、平成一〇年末にマメトラ農機株式会社の桶川工場は閉鎖となったため多くの社員は退職し、その余の社員は秋田工場に移って働き、原告も現在は同工場で働いている。原告は、復帰後、平成八年八月二一日から同年一二月二〇日までに一〇七万八〇〇〇円、平成八年一二月二一日から平成九年一二月二〇日までに三〇七万三〇〇〇円の収入を得ている。また、マメトラ農機の定年は満六〇歳である。

(三) 逸失利益の判断

前提となる事実(原告の後遺障害の内容及び程度)及び右の認定事実によれば、原告の収入減少分は、本件事故前の一五パーセント程度にとどまっているが、マメトラ農機株式会社の経営状況からして、原告が同社で定年まで勤務し続けることができるか否かについて不安定要素が大きく、原告の後遺障害の内容及び程度からすれば、定年後の再就職には相当程度の困難が伴うことも予想される。そして、後遺障害の程度が併合九級であることをも併せて考えると、原告は、症状固定時(平成一〇年四月一六日)である五三歳から労働可能期間として六七歳まで平均して三五パーセントの労働能力を喪失したと判断するのが相当である。

そして、原告は、本件事故に遭わなければ、六七歳まで平均して、少なくとも本件事故の前年の収入である年間三五九万〇〇三二円の収入を得ることができたというべきであるから、これを前提に、労働能力喪失率を三五パーセントとし、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除すると(係数は九・八九八六)、一二四三万七七〇一円(一円未満切り捨て)となる。

(計算式)

3,590,032×0.35×9.8986=12,437,701

これに対し、被告は、原告は身体的障害を抱えていることから当初から労働能力が減少しており、その収入は元来恩恵的なものが包含されているのであって、本件事故後の減収は、マメトラ農機株式会社の経済情勢の変化によるものであり、また、原告が後遺障害によるハンディを克服して収入減少をカバーしているような事情もないから、原告の逸失利益はさほどのものではないと主張する。

たしかに、原告は、本件事故前から身体的障害を抱えているものの、それが、耕運機の組立作業にどれほど影響しているのかは必ずしも明らかでなく、また、原告の本件事故の前年の収入である年間三五九万〇〇三二円は、平成三年賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・小学・新中卒の四五歳から四九歳の平均収入である年間五五〇万八二〇〇円の約六五パーセントにすぎない。そして、原告の労働内容は、この程度を相当程度下回るものであることを窺わせる事情はないことをも併せて考えると、マメトラ農機株式会社が原告の身体的障害に理解を示して雇用し続けてきたとしても、本件事故前年の原告の収入自体は、その労働の対価と評価するのが相当である。したがって、本件事故後の減収は、後遺障害による労働への支障によるものであるといえるから、被告の主張は理由がない。

7  慰謝料(原告主張額一一四〇万〇〇〇〇円) 一一〇〇万〇〇〇〇円

原告の負傷内容、入通院の経過(ただし、甲八の1ないし330によれば、原告は、退院後平成八年六月までは少なくとも一か月に一五日以上でほとんどの月は二〇日以上通院をしていたが、翌七月から症状固定日までは平均して一か月に一度程度の通院しかしていないことが認められる。)、残存した後遺障害の内容及び程度などの一切の事情を総合すれば、原告の慰謝料としては、一一〇〇万円(入通院分四六〇万円、後遺障害分六四〇万円)を相当と認める。

8  過失相殺及び損害のてん補

1ないし7の損害総額四五三七万八四一七円から、原告の過失割合である二〇パーセントに相当する金額を控除すると、三六三〇万二七三三円(一円未満切り捨て)となる。

この金額から、原告が損害のてん補を受けた自賠責保険金六一六万円を差し引くと、三〇一四万二七三三円となる。

9  弁護士費用(原告主張額五六五万〇〇〇〇円) 三〇〇万〇〇〇〇円

審理の経過、認容額などの事情に照らすと、本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用としては、三〇〇万円を相当と認める。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、不法行為に基づく損害金として三三一四万二七三三円と、これに対する不法行為の日である平成四年五月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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